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TJAR2014 ~リタイア後

 応援に来てくれていた父親の車で静岡市内まで下る。久しぶりの街の明かりが眩しい。人通りのある人工物が何か別の世界の様に感じた。父親があそこに選手がいる、と教えてくれた。起き上がって外を見ると柏木選手が街中を進んでいた。賑やかな通りとは不釣り合いな姿。しかし僕には最高にカッコ良く見えた。車を止めて窓から柏木選手を呼ぶ。柏木選手と何を話したかはあまり覚えていない。ただしっかりした握手だけを覚えている。さらに佐幸選手も発見、みなラストのロードを歯を食いしばって歩いている。僕に出来るのは応援だけだ。

 少し先にずっと見てきたシルエットの選手。キャップの上にヘルメット、米田選手だ。大声で米田選手の名前を呼ぶ。何を言えばいいのか、涙で言葉にならなかった。唯一出てきた言葉で覚えているのは

「すみません、リタイアしました。完走してください」

 米田選手は何も言わず僕の手をしっかり握ってくれた。今まで生きていた中で一番熱く、力強い手だったのを覚えている。

「絶対完走!」

 米田選手はその言葉を力強く言ってくれた。大会中、一緒に行動している中でずっと二人で言ってきた言葉。僕は途中で言えなくなってしまったけど、彼はまだ進んでいる。車の中でしばらく声を出して泣いた。

 さらに先には西田選手が。リタイアした事を告げる。会話はあまり覚えていない、ただ泣いてしまった事と、西田選手の優しく、力強い握手だけを覚えている。

 大浜海岸に到着すると沢山の応援の方が。父親がTJARの関係者を探してくれたようで、飯島委員長が車へ来てくれた。すみませんとしか言葉が出なかった。
 飯島委員長との会話で「このレースは甘くない、最後のロードは地獄だから」の言葉が強く印象に残っている。「また報告会で会いましょう」と握手してその場を離れた。僕はここにいる資格はない、一刻も早く大浜海岸を離れたかった。父親にお願いして車を出してもらう。

 少しすると両脚の激痛が再び襲ってきた。本能的にこれはマズイと判断して救急病院を受診する事にした。ナビで病院を見つけて救急外来を受診。救急室へはストレッチャーで運ばれた。まさか自分が運ばれる立場になるとは。ドクターの診察と検査が終わり、点滴で投薬を受ける。筋肉がかなり破壊されていて、その影響で腎臓の機能も危ないかもしれないのでとにかく薬を投与して様子を見るとの事だった。しばらく様子を見る。その後は薬がよく効いたらしく症状は改善していった。
 入院はベッドが満床で無理との事だったので、父親がすぐ近くにホテルを取ってくれた。少し症状や痛みも落ち着いたので車椅子で車に乗りホテルへ向かった。
 久しぶりの屋内での睡眠、望んでいたはずなのに違和感しかない。ここで寝てしまうとリタイアになるのでは。そんな考えが頭を離れなかった。コンビニで買った食べ物を少し食べて落ち着く。ここまで走り回ってくれた父親と妻には感謝しかなかった。ベッドに横になるとすぐに記憶がなくなった。

 翌朝目が覚めると、足裏の痛みが凄い。太腿に気を取られていたが足裏も酷い状態だった。歩く事は無理でその日は車椅子の移動になった。それでも少しずつ症状は改善していった。フェイスブックを見ると米田選手、西田選手、雨宮選手、佐幸選手、柏木選手は無事ゴールしたとの事で安心した。同時にほんの少し悔しさが。でも思った以上に納得している自分がいた。

 大会後は数日間、食べても食べても空腹感が続いた。体が回復させようとしているのか、単なる飢餓感か。2日ほどで足裏の状態は良くなって歩けるようになった。(まだ脱皮は続いている)
両太腿はいまだ正座が出来ない状態だが、何日か前から10km程度走れるまでには回復した。痛みはあるもののキロ5分程度までスピードも出るので大丈夫だろう。まだ完治していないのに、もう山に行きたいと思っている自分がいる。一方で少しほっとしている自分もいる。この2年間はひたすら走り続けていたのでその反動だろうか。

 共に山を駆け抜けた仲間達で、もう2年後に向かって始動している仲間もいる。違う目標に向かって走り出した仲間もいる。今回の大会を逃し、2年後に向かって走り続けている仲間もいる。ゆっくり休息を取っている仲間もいる。
 日常生活に戻っても、目を閉じればあのアルプスでの7日間が蘇ってくる。ずっと夢見ていた舞台はいつの間にか現実に。そして過去に。いつまでも思い出を語っていてはいけない。僕も先へ進もうと思う。けれどもそれは2年後のTJARではない。誰もやった事のない事への挑戦。距離や高さや時間を競うのではなく、アイデア勝負で最初の一人となる。可能性は無限、時間は有限。YASUHIRO先生の言葉を今一度思い出す。

 痛みは一瞬、命は一つ。
 さあ、次の挑戦へ。

 日々練成

 
[ 2014/09/02 19:49 ] 2014TJAR | TB(0) | CM(6)