TJAR2014記録 8日目 その1 (17日)

 激痛の走る太腿でウソッコ沢小屋への下りを降りる。一人になると再び幻覚が見え始める。沢の音が凄い、きっと連日の雨でかなり増水しているのだろう。コースタイムよりかなり時間がかかって中ノ段の標識。それから朦朧としながらフラフラといつ着くともない下りをひたすら降りる。ウソッコ沢小屋はいつ通過したのか・・・。記憶も曖昧だしそもそも小屋を見たのかも怪しい。金属製の階段は前向きで降りると脚に激痛が走り転びそうになる。両手で手すりを握って横向きや後ろ向きで何とか這うように降りる。下に見える沢の増水が凄い。落ちたら間違いなくアウトだ。手すりのない階段は慎重に降りる。

 何個階段や吊り橋を渡っただろうか。雨で滑りやすく、申し訳程度のトラバース道を進む。本当にこの道で合っているのか?試走出来なかった道は不安になる。何箇所か崩落した場所を通り、川べりまで降りると道が途切れていた・・・。そんなバカな。何度も地図を見るが自分の位置に確信を持てない。そのうちガスや雨で視界がどんどん狭くなってきた、と思ったらこんな時にヘッドランプのバッテリー切れ。予備のライトで照らしながら雨の中バッテリーを交換。探りながら先を進むが何度も行ったり来たり。「絶対に負けるか!」叫んで自分を奮い立たせる。僅かなペンキマークを見つけて進むとヤレヤレ峠と文字が。ようやく自分の位置が分かる。地図を見て確認。ここまできていたのか。最後のトラバースでも迷いながらフラフラになって進む。

 ふと前をみると吊り橋の基礎コンクリートとワイヤーが見えた。畑薙大吊り橋だ。もう怖さなんてない。一刻も早くここから脱出したい。ストックを落とさないように二本まとめて持ち、片手でワイヤーを掴みながら無心で渡る。今まで聞こえていた沢の轟音がいつの間にか静寂に変わっていた。

 対岸に渡るとどっと疲れが。同時に忘れていた靴ずれの痛みも。時間は1:30か2:00だったか・・・?舗装路を進むとバス停の東屋が。そこに米田選手が仮眠していた。かなり熟睡しているようで、このままだと寝過ごすような勢い。申し訳ないが声をかける。起きる米田選手。結構仮眠していたようだ。僕も仮眠しようかと思ったが、関門までは後5時間。距離は25km。歩いても間に合うが眠気がヤバいので少しでも仮眠したい。だが寝てしまうと寝過ごしそうでかなり不安。とりあえず行けるとこまで歩いて眠気が我慢出来なくなったらそこで仮眠する事にした。その前に足のケアをしようと靴を脱ぐ。足の裏は酷い有様だ。出来る事は絆創膏を貼ったりワセリンを塗るぐらい。米田選手は先に出発。僕も足のケアが終わった後に出発。

 ここから地獄を見た。

 歩きだしてすぐさま眠気に耐えられず仮眠しようと適地を探すが回りはアスファルトの道。少し歩くと目の前に「選手仮眠場所」とかかれたスペースがあった。ここで寝ようと近づいてザックを降ろすと、そんな物は何処にもない。ただ暗闇とアスファルトがあるだけ。幻覚だ・・・。ザックを背負い直して歩くと今度は東屋とベンチが。近づくとやはり何もない。目の前にはガードレールがあるだけ。今度はチェックポイントの看板。ああ、やっと着いたと小走りに駆け寄ると道路脇の壁面にぶつかった。これも幻覚。そのうちもうチェックポイントを通過したような感覚がやってきて、もうここで熟睡していいんだと思いだす。いやいや、そんな訳ないだろう。進まなきゃ。そして見えてくるのは選手仮眠所のスペース・・・。フラフラと幻覚と現実の境目を行ったり来たり。どちらが現実か分からなくなってしまったり、ふと我に返ったり。幻覚で眠る事も出来ないまま記憶が途切れた。

 どれぐらい繰り返しただろうか。後から調べると2時間以上彷徨っていたみたいだ。ここまでは少し記憶が途切れて何をしていたのか覚えていない。
 気がつくと遠くから近付いてくる明かり。強烈な明るさが目に飛び込んできて我に帰る。目の前には車のヘッドライト。
 「仙波さん!」
 かけられた声にああ、名前を呼ばれていると脳みそが僅かに反応した。車から降りて来た人は誰だっけ・・・。大丈夫ですか!と言われて一気に現実に意識が戻って来た。ここはどこだろう。何をしていたんだ?声をかけてくれた人物は応援に来てくれたMH.TRCの安井さん、上田夫妻だった。我に返って現在位置を聞くと畑薙第一ダムのすぐそばだという。井川オートキャンプ場まで後16kmほど。時間は4時半。あと2時間半で15km、不可能じゃない。安井さんと上田君も行けますよ!と力強く声援を送ってくれる。突然スイッチが入ったように全身に力が沸いてくる。進むんだ、関門まで、何としても。

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彷徨っていた直後の貴重な僕の写真。(上田君提供)

 安井さん、上田夫妻の応援を受けてダッシュでダムを渡る。走りながら地図を見ると本当に残り15kmか疑わしい。途中何度も距離を確かめるがその度に間に合うのか不安しか広がらない。だけど進むしかない。足の痛みをねじ伏せて今出せる最大のスピードで走る。
 先行した安井さん、上田君が再び車で来てくれて応援してくれた。「あと8kmです!間に合いますよ!」残り1時間20分で8km。大丈夫いける。トンネルを何個かくぐると大きなカーブを曲がった先に安井さんの姿が。大きな声で僕を呼んでくれている、何より力が出て関門まで200mは最高速で走った。
 
 6:43
 井川オートキャンプ場 関門
 仲間の力で関門に着く事が出来た。安井さんと握手を交わす。米田選手と柏木選手が出発準備をしているところだった。とりあえず関門を出る事を告げて、関門通過。その後足のケアをする。この時初めて自分の太腿から下、膝が曲がらないぐらいに腫れている事に気がついた。膝関節が隠れる程腫れている。膝の曲がる角度が半分ぐらいしかない。靴下を脱ぐとマメと靴ずれは酷いもんだ。皮もふやけて半分ぐらい浮き上がっている。少し乾かしてシューズを履くと、紐が結べないぐらい足が腫れているらしい。でも進むしかない。
 スタッフから田中選手が茶臼小屋でリタイヤした事を知らされる。あの田中選手が、どうして。あんなに元気に市野瀬を出発して、行く先々で元気に先行していたのに。何が起こるか分からない、今は自分に集中だ。

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関門到着直後の僕。後は米田選手。(安井さん提供)

 飲み物を買って7時半過ぎ、安井さんとガッチリ握手して井川オートキャンプ場を出発。雨は上がって少し晴れ間も見える。濡れて重いストックシェルターを広げてザックにかけ、干しながら進む。すれ違う沢山の人に応援を頂いて元気が出る。本当にありがとうございますしか言えない。応援で進んでいる感じだ。先ずは井川駅までを目標に歩きだした。

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 日々練成

 
[ 2014/08/31 18:53 ] 2014TJAR | TB(0) | CM(0)

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